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宇宙航空研究開発機構

なぜ再使用宇宙輸送システムか?

現在の衛星打ち上げ用ロケットのように1回の打ち上げにしか使えない“使い切り”に代わる“再使用型”の宇宙輸送系というコンセプトがあり、いろいろなところで研究開発が行われています。また、米国のスペースシャトルではある程度の実用化もされました。今回は、この再使用型の宇宙輸送システム(以下、再使用システムと呼ぶことにします。)の話です。
しかし、再使用システムとはどういうメカニズムのものかとか、どのような技術が研究されているかというような話ではありません。再使用システムはどういうものになるかははっきりしたことは残念ながらまだよく分かってないし、そのための技術についても十分成熟しておらず短く説明することがむずかしいのが現状です。よって、今回は、研究者が再使用システムを目指している動機のようなものについて書いてみます。

再使用システムを目指す動機は、私は3つあると考えています。

まず1つ目は、“もったいない”です。非常に高度な機器や構造体などから構成されるロケットを1度しか使わないというのは“もったいない”という素朴な発想です。世の中には、使い捨ての容器など使い捨てた方が(少なくとも直接的には)安上がりとなるものがあります。そういうものでさえ、資源や環境のことを考えて“もったいない”という考え方が拡がってきています。まして1機で何十億円というロケットを使い捨てることなんかもってのほか、というわけです。
とは言っても今の使い切りロケットは1回きりの打ち上げを前提に設計されていて、繰り返し使えるようにするのは容易ではありません。まず、もっと丈夫にしたり長く使えるようにしなければならない部分があります。また、それよりも大変なのは、今のロケットは打ち上げが終わったら海に投棄したり軌道上に残ったりしますが、再使用するためにはロケットを壊れないように射場に戻さねばならないことです。それを実現するには、機体は大きく複雑になって製造費は更に高額になるでしょう。でも、何百億円もする大型旅客機でも繰り返し繰り返し使うことによって海外旅行が普通の人でもできるように、宇宙に行く手段も何度も使えるようにして1フライト当たりのコストを下げたいという希望です。

2つ目は“快適に”です。メルマガの第240号第248号で紹介したように、宇宙から戻ってくる時のGを小さくするには翼をつけるなどして揚力を利用する機体にする必要がありますし、宇宙に行く時のGや振動を小さくする一つの方法は空気吸い込み式エンジンを使って時間をかけて上昇することです。再使用システムでは翼があったり空気吸い込み式エンジンを使う機体になる可能性が高く、飛行中の乗員の環境はかなり穏やかになると思います。それでも、秒速8km近く(普通の旅客機の約30倍です)まで加速したりその速度から減速したりしなければならないので、飛行中に食事やワインを楽しむというわけにはいかないかもしれませんが(しかも、上昇や帰還にはそんなに長い時間はかかりません)、再使用システムでは普通の人が特に訓練をしなくても宇宙に行ける快適さが実現すると考えています。

3つ目は“安心して”です。昔はともかく、今日では飛行機に乗る時に事故にあうかもしれないことを覚悟して乗る人はほとんどいないと思いますが、宇宙に行くのはまだそれほど安全なことではありません。安全であることと再使用であることは同じことではありませんが、使い切りロケットに比べて再使用システムがより安全になり得るいくつかの理由があります。
ひとつは、単純化して言えば“昨日ちゃんと飛んだ機体は今日もうまく飛ぶだろう”ということです。この言い方だけだと点検もせずに目をつぶって飛ばしてしまえというように乱暴に聞こえるでしょうが、実際には点検したり(多分、多くの項目は自動点検になると思います)必要な整備をしながら飛ぶのですが、繰り返し使っているものがはじめて使うものに比べて不具合が少ないことは工学的によくあることです。新しく製造されたあるいは分解整備をして組み立てた電車は必ず試運転をしてから乗客を乗せますが、毎日走っている電車が毎朝試運転をしているかと言えばそんなことはありません。
もう一つは、万一飛行中に不具合が発生した場合に、元々地球に戻ってくることを前提にしている再使用システムは、飛行を中断して着陸することが使い切りロケットより容易にできることです。旅客機が飛行中に故障した場合のほとんどでは近くの空港に無事着陸できていて、再使用システムでも同じようなことを目指そうとしています。

米国のスペースシャトルが飛び始めた頃には、その次には機体を完全に再使用するシステムが実現すると多くの人たちが考えました。残念ながら、スペースシャトルは経費の面でも安全性の面でも当初考えていたようにはいかずに退役し、米国の次の宇宙輸送システムは使い切りロケットを用いたものになる見込みです。
しかし、宇宙にいく輸送系も必ず再使用型になると信じて、多くの国で研究が続けられています。

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