無人航空機ドローンについて ードローンの研究開発動向ー

JAXAメールマガジン第285号(2017年3月6日発行)
齊藤 茂

こんにちは、ヘリコプターを研究している齊藤茂です。前回は我が国におけるドローンの生い立ち話をしました。
我が国における小型模型機の発展が今から50年以上も前にさかのぼるという事実は、戦前の航空機にあこがれた人が多数いたという事実と合致すると考えてもおかしくはないでしょう。しかし模型航空機を開発することが即産業にまで発展するかと言えばそうではありません。事実、その後の小型無人機は競争により淘汰され、現在はホビーも含めあまり多くの企業が残っていません。この事実は、我が国における無人機の産業化があまり進んでいないことの証左で、今日のようにドローンが世に現れてくると、ごくわずかの企業を除いてこの波に乗り遅れているのが現状ではないでしょうか。

農薬散布の分野では、当初有人ヘリコプターを用いた散布が主流であったのが、徐々に無人ヘリコプターにとって代わられ、今日ではごく一部を除いて有人ヘリコプターによる農薬散布は見られなくなっています。これはヤマハ発動機が開発した無人ヘリコプターRMAXの出現がこの分野での普及に大きく貢献しています。今日では、韓国やオーストラリアなどにも機体を輸出しており、最近では米国内初の農薬散布用無人ヘリコプターとしてFAAから認可された実績を持つまでになっています。米国やオーストラリアなどのように広大な土地を有して農業を営んでいる国においては、まさに有益な手段となり得るもので、今後の発展を期待するところです。

ドローンに関して言えば、我が国では大学などで研究用教材としての研究が進んでいますが、産業として独自に開発が進められてはおらず、前稿(第279号)でも説明したように、中国のDJI社のドローンが価格も手ごろであることから広く普及しています。価格面に加えて機体を制御する制御則などを独自に開発し、不慣れな人でも容易に飛ばすことが可能となっていることが広く普及した主な理由と考えられます。他にも米国の3Dロボティクス社はこの制御則を公開しており、少し興味のある人ならばこの制御則を用いて改良させることが可能となっています。この制御則等の開発が我が国では遅れたことが、日本製ドローンの普及が進んでいないことつながっていると考えられます。

このように我が国において急速に普及したドローンの飛行に関しては、これまでオペレーターの良識に頼ってきたところですが、一部の無謀なオペレーターによって危険な飛行をするようになってきています。例えばお祭りのように人が多数集まる場所において上空からの写真撮影などを行い、電池切れやオペレーターミスにより人の近くで墜落した例や、首相官邸の屋上などに墜落した例など、人体への危害や重要施設などへの無断侵入また器物破損などの危険な行為が近年繰り返されるようになってきました。また人のプライバシーを侵害するような飛行の仕方など、もはやオペレーターのモラルに頼るだけでは事故を防ぎきれない事態となって、政府としても何らかの規制が必要との判断により、ドローンの飛行に関する法律の制定にまで発展してきています。この動きは我が国だけでなく米国や英国・フランスなどいわゆるドローンの普及国でほぼ同時期に規制が行われるようになっています。安全性や健全な飛行をするためにもこの種の法律による規制は妥当なものと考えます。

他方この種の規制は、特に中小企業などのメーカーにとっては製造に関してハードルの高いものとなり、開発競争に水を差すとの批判もあります。しかしながら今後の物資輸送などのドローンの産業化が進む中でより健全な発展を見るためには、今まで野放しになっていた安全性に対する考え方や自動または自律飛行などの考え方をきちんと定義することも重要なステップであろうことは論をまちません。我が国におけるロボット技術の中に位置づけられている無人機技術は、第2の産業革命ともいわれるように社会環境を大きく変えるポテンシャルを秘めており、より健全で安心・安全な製品が世に出てくることが今後のより良い普及に大きく貢献することでしょう。

今後ドローンを含む無人機の技術はあらゆる分野でその能力を発揮すると予想できますが、公的な研究所としての役割がどこにあるかということを、航空を志すJAXA航空部門としては真摯に考えていくことが求められています。航空技術の産業への貢献と同時に人類の社会環境を豊かにすることかつ安全な社会に実現に取り組みつつJAXA航空としての役割を全うすることが求められているのです。

JAXAメールマガジン第279号