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宇宙航空研究開発機構

小型超音速実験機の思い出(その1)

JAXAメールマガジン 第299号(2017年10月6日発行)
吉田憲司

 皆さん、こんにちは。航空技術部門の吉田憲司です。私はこれまで超音速機技術の研究開発に携わり、小型超音速実験機(NEXST)低ソニックブーム設計概念実証(D-SEND)の両プロジェクトを通して大学や企業では味わうことのできない貴重な経験をさせていただきました。中には教訓的なこともありましたので、この場をお借りして紹介させていただければと思います。

 今回はNEXSTの話です。この「生みの親」兼「育ての親」は去る7月18日に他界された“坂田公夫”元理事です。1997年度にスタートしましたが、その立ち上げには坂田さんの大変なご苦労があったと聞いております。“NEXST”とは“National EXperimental Sueprsonic Transport”の頭文字で、“S”が余計ですが“次世代”を意識させる良いネーミングではないでしょうか?(名前は大事ですね!)このプロジェクトではコンコルドの最大の課題の一つである経済性の向上を実現する高揚抗比(L/D)空力設計技術の開発と飛行実証が目的でした。私は1996年度から旧航空宇宙技術研究所(NAL)にお世話になり、最初の仕事はこのプロジェクトで“ジェットエンジン無し実験機(NEXST-1と呼称)”の空力形状を決めることでした。

 この実験機は想定実機(300人乗り)の約10%スケール(全長約10m)の空力形状とし、機体重量は約2トンで実機と同程度の高度(約18km)を飛行させることが予算的な前提になっていました。実はスケール機では翼面積の縮小率に比べ重量が小さくなり過ぎるため、水平定常飛行するために必要な揚力係数はかなり小さくなってしまい、最適なL/Dで飛行できないことは明らかでした。
 またこの実験機はジェットエンジンが無いため、飛行高度までは大型の固体ロケットで打ち上げ上空でロケットを分離し、それとは別に胴下に装備した小型の固体ロケットで水平定常飛行を行うことが計画されていました。そのためロケット実験機とも呼ばれました。揚力係数の件は、一案として旋回飛行して荷重倍数を増加させる案がメーカーから提案されました。
 非常に工夫の効いた良い案と個人的には感じましたが、いわゆる横・方向運動をさせることになるため不確定要因が増え飛行実証には向かないとの判断で却下されました。それなら縦運動のみとし、また胴下の小型ロケットは明らかに翼胴干渉抵抗を増大させますのでそれも捨てて水平定常飛行を諦め、完全な超音速グライダーとして風洞試験のように迎角をステップ的に変化させて抗力特性を把握する飛行試験方式を空力班で考案しました。結果として非常にシンプルな試験計画となり、採用となりました。当初計画に縛られずに課題を議論しながら解決案に至った好例と感じます。

 空力形状は当時理論的に知られていた圧力抵抗低減技術を最大限取り込むこと、つまり構造や飛行性の制限をまずは忘れて空力的に最適化することを行い、さらに当時誰も試みていなかった摩擦抵抗低減にも挑戦し、世界初の自然層流翼設計法を開発して適用しました。空力形状の設計はNALが主体で行いましたが、その検討過程や結果は重工メーカー(三菱、川崎、SUBARU)と東北大学との定期的な“研究会”で議論を重ねながら進めました。これは坂田さんの「次世代超音速機の設計技術はAll Japanで共有して我が国の技術レベルの底上げに貢献したい」とする強い信念によるものでした。

 このように空力形状の設計は、まさに「設計手法の開発」という研究行為と並行して進めて行った感があり、実験機開発を担当する重工メーカーの合同設計チームの作業とリンクしながら(スケジュールに追われながら)NAL空力班が一丸となって進めていったことを懐かしく思い出します。正直、旧NALの研究者はスケジュールに追われる作業に戸惑っていたようでしたが、坂田さんはその点を十分理解して常にマージンを用意して現場の私達がパニックにならないように管理されていたと感じます。そして、1998年秋に最終的な空力形状が固まりました。ただ飛べば良いのではなく、実験機が新しい空力設計技術の効果を飛行実証するものであるために、先進的な抵抗低減技術を開発し、それを風洞試験で確認する時間的余裕もないまま実験機設計に適用しました。
 今になって思いますとかなり大胆であったと感じますが、これも坂田さんの英断であり、私達空力班を自由にするための方策の一つであったと思います。この段階は本当に楽しく充実した毎日でした。しかし、NEXST-1プロジェクトはその後多くの苦労を経験します。それにつきましてはまた後日に!

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