D-SEND(低ソニックブーム設計概念実証)プロジェクト

D-SEND(低ソニックブーム設計概念実証)プロジェクトは、将来の超音速旅客機実現の最重要課題の1つである「ソニックブーム」を低減させるための機体形状の設計概念及び手法を実証・評価するプロジェクトです。環境適合技術としてJAXAが世界に対し技術的優位性を持つ「低ソニックブーム設計概念」の実現性を飛行実証により示すとともに、現在国際的に検討が進んでいる次世代超音速機のソニックブームに関する国際基準検討に貢献可能な空中ソニックブーム計測手法を獲得することを目標としています。

※D-SEND=Drop test for Simplified Evaluation of Non-symmetrically Distributed sonic boom


プロジェクト概要

D-SENDプロジェクトは、大型気球を用いた落下試験で、2種類の軸対称体を落下させソニックブームを比較計測するD-SEND#1(2011年5月実施)と低ソニックブーム化技術で設計した超音速試験機を飛行させソニックブームを計測するD-SEND#2(2015年7月実施)の2つから構成されます。ソニックブームの計測は、地上及び係留気球に取り付けられたソニックブーム計測専用のマイクシステムにより行われます。
試験は、スウェーデンの北極圏内に位置するエスレンジ実験場で行われます。

超音速試験機(S3CM)概要

試験機(S3CM:Silent SuperSonic Concept Model)は、エンジン無しの無人超音速滑空機で、JAXA固有の低ソニックブーム設計概念に基づいて空力形状(外形状)が設計されています。機体の寸法諸元は、全長7.913m、主翼幅3.510m、主翼面積4.891m2、全備重量は1,000kgです。方向舵及び水平尾翼が、飛行制御に用いられます。気球から分離後は、自律的にブーム計測システム上空を設計条件で滑空するように「飛行制御コンピュータ」が制御を行います。飛行制御用のセンサは、GPSとINSを統合した「GPS/INS航法装置」、「エア・データシステム」、高精度の「Az加速度計」が搭載されています。機体構造のほとんどの部位には、アルミ合金が使用されています。製造時の主翼形状は、実際にソニックブームを計測する時の動圧で変形した形状が所期の空力設計形状となるように設計されています。

低ソニックブーム設計概念

航空機が超音速で飛行する時、機体各部から発生する衝撃波が大気中を長い距離伝播するに従い統合し、地上では、2つの急激な圧力上昇を引き起こすN型の圧力波形として観測されます。これが一般に「ソニックブーム」と呼ばれているものです。
JAXAでは、コンピュータを活用して機体の空力形状を工夫し、従来のソニックブーム波形の強さを半減する低ソニックブーム設計技術を研究しており、D-SEND#2試験機には、以下の設計概念が適用されています。

ABBA試験

D-SENDプロジェクトや将来の静粛超音速機の飛行実験で用いることができる空中ソニックブーム計測(ABBA:Airborne Blimp Boom Acquisition)システムの計測・記録部分の試作品の機能確認、課題の抽出とソニックブーム評価技術の研究のための実在ソニックブーム波形の取得を目指し、2010~2011年に実施しました。
ブーム計測システム(BMS)は、地上付近の大気乱流がソニックブーム波形に与える影響を避けるために、小型気球を用いて、低周波マイクを高度750mに係留します。また、係留索上及び地上にもマイクを配置し高度方向のソニックブーム波形の変化も計測します。同時に、地上及び小型気球の高さでの温度等の気象データが取得されます。

第1フェーズ試験(D-SEND#1)

2011年5月に第1フェーズ試験(D-SEND#1)をスウェーデン・エスレンジ実験場で実施しました(2011年5月19日プレスリリース)。D-SEND#1では、2種類の軸対称体(通常のソニックブーム波形を発生させる形状の「NWM」とソニックブームを低減させる設計をした形状の「LBM」)を、気球で浮上させ、高度20~30kmから順番に落下させました。自由落下により超音速まで加速し発生したソニックブームを、JAXA開発の空中ソニックブーム計測システム及び地上計測システムを用いて計測しました。2回の落下試験の結果、D-SEND#2でも用いる気球落下試験によるソニックブームの計測方法を世界で初めて確立しました。また単純な軸対称形状から発生したソニックブームのデータは、ソニックブーム推算法の検証用データとしての希少価値が高いため、今後のソニックブーム研究への貢献が期待されるものです。

第2フェーズ試験(D-SEND#2)

D-SEND#1と同じスウェーデン・エスレンジ実験場で、2015年7月に、第2フェーズ試験(D-SEND#2)を実施しました(2015年7月27日プレスリリース)。D-SEND#2はJAXA固有の低ソニックブーム設計技術を用いて機体の先端と後端にソニックブーム低減化を図った航空機形状の「超音速試験機(S3CM: S-cube Concept Model)」で飛行試験し、「低ソニックブーム設計概念」の実現性を実証します。
超音速試験機は気球に吊り下げられ、高度30.5kmで気球から切り離されました。落下速度により超音速に達した機体を、マッハ1.39、経路角47.5度で滑空させ、地上に設置したソニックブーム計測システム(BMS)上空を通過する際に発生するソニックブームを計測しました。

D-SEND#2試験シーケンス

D-SEND#2超音速試験機

放球準備中の様子

機体の着地状態

D-SEND#2 分離の様子(©SSC)(9秒)

D-SEND#2 飛行再現アニメーション+搭載カメラ(2分8秒)

D-SEND#2落下試験(4分46秒)

静粛超音速技術の研究開発〜D-SEND#2落下試験の成果〜(6分29秒)

特設コンテンツ(D-SEND#2)

D-SENDデータベース

D-SENDプロジェクトで得られたソニックブーム計測データ等をまとめたデータベースで、国内外のソニックブーム研究者に活用していただくことでソニックブーム推算技術の向上や低ソニックブーム設計技術の向上を目指しています。