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宇宙航空研究開発機構

JAXAの実験用航空機について(その2)

2018年1月22日

柳原 正明

 次世代航空イノベーションハブの柳原です。

 前回の「JAXAの実験用航空機について(その1)」(2017年8月7日)では、最初の汎用実験用航空機として1962年に導入され、足かけ50年間活躍してくれたビーチ(ビーチクラフト社製、クインエア機)をご紹介しました。ビーチの特長は、別の機体の模擬を行うイン・フライト・シミュレータ(以下、IFS)であったことですが、この機能を引き継いだのは、ドイツのドルニエ社製のプロペラ機であるDO228-202型機、通称ドルニエです。

 ドルニエは、1988年に、旧航空宇宙技術研究所(NAL)に導入されました。この機体の外見的な特徴は、胴体の断面が四角いことです。旅客機などのジェット機では、燃費の観点から最も効率的な、高度10㎞付近で巡航しますが、この高度では大気密度が地上に比べて遙かに小さいため(高度10㎞での大気密度は、地上付近の0.3倍程度)、胴体内部を与圧、すなわち、高い密度の空気で満たします。このため、胴体の内外で圧力差が生じるので、その圧力差に最も耐え易い形として、ほぼ円形の胴体断面を持ちます。しかし、プロペラ機では、高度によって燃費があまり変わらないこともあり、もっと低空を飛行します。このドルニエ機も、与圧は行われないため、断面を円形ではなく、四角くできました。床が円形の部屋よりも、四角い部屋の方が、家具を置く際などに便利なのはおわかり戴けると思いますが、ドルニエも、断面が四角いことで、実験機材の配置がしやすい等、とても使い勝手の良い機体です。ただ、反面、ドルニエ機は、ジェット機が飛行する高い高度を飛行出来ないことが、次回以降でご紹介するジェット飛行実験機「飛翔」の導入に繋がります。

 ドルニエは、導入後12年間、種々の搭載機器の飛行実証などに使用された後、2000年に、IFS化する大改造を受けました。この時に、ドルニエには、「MuPAL(Multi Purpose Aviation Laboratory、多目的実証実験機)-α」という愛称が付けられました。最後の“α”は、ギリシャ語で「飛行機」を意味する単語の頭文字です。IFSとして生まれ変わったドルニエは、その後、運輸省(当時)が行ったメガフロート実験や、東京大学などとJAXAが共同で実施した「落ちない飛行機」の実験、国産旅客機の開発などに活用されています。メガフロートというのは、大きな「浮き」を海上に浮かし、その上を空港にする、というプロジェクトです。その課題の一つは、航空機が着陸する際に空港から出される誘導電波が、波の影響を受けて揺れることでした。その影響を評価する際、実際の旅客機を使って実験をするのは、いろいろな問題があったため、ドルニエ機に大型旅客機の飛行特性を入れ、メガフロートへの着陸を行いました。また、「落ちない飛行機」とは、飛行機を制御する舵面が壊れた際に、その他の舵面を使って、安全に着陸させる、と言う技術です。この実験では、ドルニエは「舵面が壊れた飛行機」を模擬し、その技術を実証しました。(もし、実証する新規技術が設計どおりに機能しなかった場合には、直ちに「舵面が壊れた飛行機」から「正常な飛行機」に戻すことにより、安全を確保しながら実験を行うことが可能です。)

 ドルニエのようなIFSは、国内にはもちろん1機しかありません。アメリカには何機かありますが、ヨーロッパにはありません。このことから、共同研究の形で、ヨーロッパの研究者、技術者が、ドルニエを使う計画が進んでいます。また、今後、日本でも盛んに旅客機が開発されるようになると思いますが、IFSは、新規開発機の実機が出来る前に、パイロットが、その操縦を体験し、その結果を設計に反映する、と言う局面で、最も実力を発揮します。ドルニエ機は、母機の導入から30年が経ちましたが、これからも世界的にも貴重なIFSとして活躍し続けてくれるものと信じています。

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