飛行機と流れの可視化(つづき)

2019年10月21日
小池俊輔

こんにちは。空力技術研究ユニットの小池俊輔です。 前回のコラムに引き続き、今回も、「流れの可視化」を紹介しようと思います。前回は、小さな油の粒子(煙)を使って、飛行機模型の周りをどんなふうに空気が流れているか調べていることを紹介しました。では、具体的に、どのように計測しているのか? 今回は、そのやり方をちょっと詳しく紹介します。

実際の風洞試験では、まず、粒子をばらまく準備をします。この粒子をばらまく手間は、風洞によってかなり違います。低速の風洞(最高風速が約50m/s)では、わりと簡単に粒子をばらまくことができます。これに対して、高速の風洞(最高風速が約300m/s)は大変です。粒子を噴射する管を、風洞の流路に設置して、きっちりと位置合わせをして、といった感じで、1日がかりで準備します。
次に、強いレーザ(緑色のレーザ)とレンズやミラーを使って、光のシートを風洞内に作ります。この光のシートで粒子の群れを光らせるわけです。典型的なやり方では、短い時間間隔(約数マイクロ秒)で2回光らせます。そして、2回の発光のタイミングに合わせて、それぞれの粒子からの光(ミー散乱光)をカメラで撮影します。2枚の画像が1セットとして撮影されます。撮影した画像は、白黒の粒々が映った画像になります。
この粒々の画像を、慣れた人が見ると、どこに「渦」があり、どこに「衝撃波」があるか、といったことも、実はわかります。(少なくとも、私はだいたいわかります。)ただ、やはり、普通の人にはわかりませんし、定量的な数値は誰にもわかりません。
そこで、今度は、この画像を解析します。昔々は、人間が目で見て、粒子のパターンを追いかけて、矢印を描いて、といった気の遠くなるようなことをして、粒子の流れる向きや移動量を求めたりしていました。ただ、さすがにそれは大変なので、今は、コンピュータを使っています。
画像を小さい四角形の領域に分割して、その領域ごとの粒子の群れの移動量を求めます。2枚のセットの画像のうちの1時刻目の画像から切り出した四角形の領域を、ちょっとだけ動かして、2時刻目の画像から切り出したほぼ同じ位置の四角形の領域と、粒子のパターンが重なる移動量を求めるわけです。この解析の作業には、画像解析の手法である画像相関法を使用します。掛け算と足し算を大量にやるようなことをコンピュータにやらせています。
1枚目と2枚目の画像の時間間隔は、レーザの発光間隔でわかるので、四角形の領域ごとの粒子の群れの移動量と、この発光間隔から、粒子の群れの移動速度(=移動量/発光間隔)が求まります。この計測で使用している粒子は非常に小さく、空気と同じ速度で移動しているので、これが空気の速度となるわけです。
今回説明した「流れの可視化」の方法を、「粒子画像流速測定法」、英語の略称で、「PIV(Particle Image Velocimetry)」と呼びます。最近は、高速度カメラやレーザの性能が良くなり、2枚で1セットの画像を、 1秒間に約10,000セットは、撮影できるようになりました。時々刻々と変わる飛行機模型周りの流れを、詳しく調べることができます。

PIVサンプル動画


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