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宇宙航空研究開発機構

スケールモデルを用いた飛行実験(後編)

JAXAメールマガジン第274号(2016年9月5日発行)
柳原正明

スケールモデル実験で、もう一つ苦労することは、[時間]です。これも原理の説明は省きますが、スケールモデル実験では、実機に比べて時間がスケール比の1/2乗になります。たとえば実機の1/4スケールで実験を行うと、時間は(1/4)^(1/2)=1/2になります。すなわち、実機の飛行で10秒かかるところが、スケール実験では5秒で起こる、つまり2倍の速さで時間が流れるのです。このため、スケール実験では、遠隔操縦など人間が絡んだ実験はできません。また、コンピュータによる自動制御の場合でも、実機に比べて短い時間で同じ演算をすることが必要になり、コンピュータにとっては実機より厳しい条件となります。実機より小さな機体に、実機より高性能のコンピュータを搭載することが必要なのですから、これもスケール実験の難しさとなっています。私が以前に行ったスケール実験では、コンピュータの性能が要求を満たすことができず、やむをえず演算を一部はしょったのですが、その結果、いまにもひっくり返りそうな運動になってしまい、冷や汗をかいたことがありました。
以上、スケールモデルを用いた実験では、スケール比が決まると、モデルの[形状]はもちろん、[質量]と[慣性モーメント]が決まり、それに一致したモデルを作る必要があること、[時間]が早く流れるために、小型で高性能なコンピュータが必要になることが、大きな課題となってきます。ただし、これは実機の運動を再現する飛行実験での要求であり、それ以外の実験、たとえば実機の空力的な性能を評価する飛行実験(下記リンク)では、このような条件は課せられません。

▽ HSFDフェーズII
http://www.jaxa.jp/press/nasda/2003/hsfd-sac_20030702_j.html

▽ NEXT-1
http://www.aero.jaxa.jp/research/frontier/sst/nexst-1.html

▽ D-SEND#2
http://www.aero.jaxa.jp/research/frontier/sst/d-send.html

ここからは余談です。私は子供の頃、特撮映画が大好きで夢中で見ました(今でも見ていますが…)。最近、この種の映画は全てCGになり、「特撮」という言葉がほとんど死語になってしまいましたが、特撮は、ミニチュアモデルを使って実物の動きを再現するものなので、スケールモデルによる飛行実験と同じことになります。
怪獣映画では、怪獣が壊すビルのモデルの材質には、石膏などが使われていたそうです。当時の特撮マンが、「質量はスケール比の3乗で決まる」ということを認識していたかどうかは知りませんが、経験によって、紙や金属ではなく、「当たらずとも遠からず」の材質である石膏を、選んだものと思います。
それでも、どうしようもないのが時間です。たとえば、体長50mの怪獣を、人間の入った2mの着ぐるみで再現した場合、スケール比は2m/50m=1/25になります。この場合、時間は(1/25)^(1/2)=1/5となるので、ミニチュアでは、実際の5倍の速さで時間が流れます。つまり、怪獣が壊したビルの破片が、実際には10秒かかってゆっくりと地面に落ちるところが、特撮映像では2秒でポロッと落ちます。これでは、全く本物に見えません。そこで特撮マンが考えたのが、ハイスピード撮影です。ミニチュアを撮影する際に、普通よりカメラの回転を早めます。仮に5倍の速度でカメラをまわせば、2秒間の映像が、10秒分のフィルムに記録されます。このフィルムを通常の速度で再生すれば、撮影時には2秒で起こったことが、再生時には10秒かかり、実際の時間スケールになって、実物のように見えることになります。
特撮映画マンも、我々飛行実験マンと同じような苦労をしてきたと思うと、特撮映画が一層身近に感じられるのです。


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