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宇宙航空研究開発機構

バブルでもって、ゆとりの操縦(前編)

JAXAメールマガジン 第297号(2017年9月5日発行)
飯島朋子

「ゆとりでしょ? そう言うあなたは バブルでしょ?」
これは、今年のサラリーマン川柳(※1)第一位の作品です。
この作品を見た瞬間、今春のSafeAvioプロジェクト(※2)の成果を連想してしまったのは私だけでしょうか? はい、そんな変な連想をしているのは私だけですね、すみません!
実は昨年度SafeAvioプロジェクトでは、「バブル」と呼ぶ、コックピット計器表示情報を考案し、それで「ゆとり」の操縦を飛行実証したのです(※3)

「バブルでゆとりの操縦? 何ですかそれ?」ときますよね。

SafeAvioプロジェクトでは、航空機に搭載したドップラーライダーというセンサ(以下、ライダー:図1参照)で乱気流を検知し、パイロットにその情報を提供することで、乱気流による事故を回避することを目指していました。実際、風向風速の変化や気流の乱れが、着陸失敗の事故につながった事例や、着陸復行(着陸するための降下を止め、再び上昇して着陸をやり直す)の原因になった事例が発生しています。成田空港の場合で着陸復行の原因の90%以上が風の急激な変化や乱気流との統計データもあるほどです。
そこでこのプロジェクトでは、着陸進入中に、事故に至りそうな乱気流を検知し、パイロットに着陸復行の警報を出すことで、乱気流による事故を防ぐことを、目的の一つにしていました。


「事故を防ぐことは重要だけど、それじゃあ乱気流があった時しか使えませんよね。」
「確かに安全性は向上するけど、乱気流のある特異な状況でしか使えないとなると、なかなかライダー技術の実用化も難しいのでは?」
「そうそう。搭載に費用はかかるかだろうから、費用対効果が高くないと、エアラインもライダーの搭載を考えてくれませんよね。他の使い方はないのでしょうか?」
「ライダーというのは、10数Km先まで気流を測れますよね? それなら、乱気流に限らず、航空機前方に存在する遠くの気流(遠隔気流)情報を普段の運航に活かす方法を考えれば良いのでは?」
去年の今頃、プロジェクトの真の目的をよそに、共同研究先の東京大学と、議論の花が咲き始めていました。

そこで、今ある旅客機のコックピットに提供されている気流情報がどの程度、運航に役立っているのかを調べることからスタートしました。調べてみると、風向・風速、対気速度計の他、スピードトレンドベクターと呼ばれる予測速度表示があることが分かりました(図2)。
このスピードトレンドベクターは速度計に表示されています。
矢印がビヨーンと上側に伸びれば加速、ビヨーンと下側に伸びれば減速ということで、旅客機の加減速が直感的に分かる優れもの。通常、10秒後の予測速度が表示されるようです。つまり、現在160KT(ノット)を目標に飛ぼうとしていた時、10秒後が170KT(ノット)になるなら、スロットル(推力)を予め減らしましょうというわけです。


なかなか良い表示があるな~と思いましたが、ちょっと待てよ!
このスピードトレンドベクターは、航空機の現在の「加速・減速」を基に将来の対気速度を予測して、表示しているとのこと。
もし、遠隔気流が変化したら、どうなってしまうのでしょう?

「前方に向かい風があれば、対気速度は増速するし、追い風があれば減速する。遠隔気流の情報は一切考慮されていなくて良いのでしょうか?」
「良いの? というか、そもそも今までの技術ではできませんよね。リアルタイムで遠隔気流の情報を航空機に提供する術がなかったわけですから。測れるのは、現在の気流(対気速度、風向・風速)だけですよね。」
「それじゃスピードトレンドベクターを使って操縦していた時に、風が急変した場合は、どうなるのでしょう?」
「誤差を含んだ予測速度情報で、その誤差が大きいなら、場合によっては着陸をやり直す事態になるかもしれませんよね。」
「もしも、ライダーで遠隔気流を測って、正確な予測速度情報が提供できれば、操縦がずっと楽になるのでは? もしかしたら、乱気流による着陸復行も減らせるかもしれない。」
「そうですね。事前に速度の急変が分かるから、回避して無理な着陸も防げるかもしれない。」
「プロジェクトの真の目的である、ライダーによる警告表示は、本当に危ない時しか出ませんしね。警告が出なくても、厳しい風の状況は多くあることだし、そういった通常運航の際にも使えたら良いですね。」
等々、ライダーを普段の運航に活かす発想に夢が広がり、

「ライダーで遠隔気流を測って、正確な予測速度情報を出してしまいましょう!」
ということになりました。ただ、ライダー普段使いの発想はここからが本番でした。

「ライダーって、10数Km先でも気流を計れますよね? 距離を時刻に置き換えれば、数10秒先までの気流情報を検知することができます。てことは?」
「距離を時間に置き換えると、航空機から見て、約30秒後の速度も測れることになります。何もスピードトレンドベクターと同じ10秒後にこだわらなくても良いのでは?」
「確かに。ライダーの性能を考えると、10秒でも、20秒でも、30秒でもその時の予測速度を出そうと思えば出せてしまいますよね。」

それなら、いっそ複数の予測速度情報を表示させてみる?!

そこで、登場したのがバブル。
バブル? それはどんな表示なのか?
それについては、次回のメルマガでふれたいと思います。乞うご期待!

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