牧野 好和

1993年、東京大学工学部航空学科卒業。1998年、東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了、同年、科学技術庁航空宇宙技術研究所(NAL)入所。2003〜2004年、米国スタンフォード大学客員研究員。

知らなかったことを知ること、体験することができる楽しさが研究にはあります

― これまでの経歴と現在の業務内容を教えてください。

大学時代から、超音速機が音速を超えて飛行する際に生じる爆音、いわゆるソニックブームの研究をしていました。ちょうど、JAXAの前身である航空宇宙技術研究所(NAL)で本格的な超音速機プロジェクトが開始されたところで採用され、そのまま超音速機の研究に携わっています。ですから、かれこれ20年以上、超音速機研究に関わってきたことになります。
入所後、ロケット実験機NEXST-1のプロジェクトに参加して、CFD(数値流体力学)を使った最適設計の研究に携わりました。またオーストラリアのウーメラ砂漠で行われたNEXST-1の実験にも参加しました。せっかくの機会だったので、当初計画にはなかったソニックブームの計測をさせてもらいました。
それから10年経って、D-SENDプロジェクトでは、低ソニックブームコンセプトを適用した機体の設計を担当しました。このコンセプトは、特許も取得しています。2013年の試験失敗には自分の担当が関わっていたので、続く2年間は原因究明や再発防止など重いプレッシャーを感じていました。2015年に成功したときには本当に嬉しく、それだけにD-SENDには深い思い入れがあります。
D-SENDプロジェクトが終わった後も、JAXAの技術を将来の超音速機実現につなげる活動を行っています。具体的には、研究開発を担っている若い研究者のマネージメント、また彼らの研究成果をアピールするような活動ですね。

― 現状、超音速機の研究はどのような状況なのでしょうか。

D-SENDプロジェクトの成果を反映し、次なる実証フェーズに向けた検討を開始しています。D-SENDとは異なる新しいコンセプトを提案して、実際に飛ばせるようにできたらと考えています。
研究したものをCFDで確認し、風洞試験で確認し、最終的に飛行実証するところまでが技術開発のサイクルだと思っています。いきなり超音速機実機開発プログラムを立ち上げて、とはなりませんが、最終的に飛ばすところまではもっていきたいという気持ちは持ち続けています。
ですが、実験機を飛ばしたというところで終わっては駄目で、常に出口を考えなければなりません。実験機による飛行実証試験のその先、試験が何につながるのかという意義価値を持つ必要があるでしょう。
2017年後半から、国内外で超音速機開発の話題が取り上げられていて、私もいくつかのメーカーと話をしてきました。それぞれのメーカーは、コンセプトも開発の進捗度も異なっていますが、これまでJAXAが研究してきた成果を紹介すると、どのメーカーも非常に強い興味を示して一緒にやりたいと言ってくれました。JAXAとしても、メーカーと良い関係を築いて超音速機の実現に向けて活動していければと考えています。

― 研究のやりがいはどこにありますか。

例えば、D-SENDプロジェクトならソニックブームを下げる、機体の抵抗を下げるという目的のために機首や主翼、尾翼の形状などを自分で考案して、さらにそれを実際に飛行する実験機にして飛ばす、そこにやりがいを感じていました。もちろん、CFDで計算することにやりがいを感じる人もいるでしょうし、風洞で計測することにやりがいを感じる人もいるでしょう。いずれにしても、自分が思ったものが形になって、それが「世界トップレベルである」と示せることは、やりがいと言えるでしょう。

― 研究の楽しさ、面白さはどこにありますか。

知りたいことを知ることができるところでしょうか。例えば、私もNEXST-1に参加するまで自分の研究テーマであるソニックブームを実際に聞いたことはありませんでした。聞いたことがないから、聞いてみたい。聞けるのであれば計測したい。そう思って、計測機器の検討から始めて、NEXST-1でのソニックブーム計測に至りました。実験後、回収したデータを再生して、急にドーンという音が聞こえた時には、興奮しました。しかし、音はきれいに録音できていたのですが、圧力波形は崩れていました。計測機器が正しく設定できていなかった、検討不足だったのです。その反省から、D-SENDプロジェクトではソニックブームを詳細に計測できるように十分検討しました。
自分だけかもしれませんが、自分が経験しなかったこと、知らなかったことを実際に体験できる、知ることができるということは、理屈ではなく興奮を覚えます。自分で何か新しいチャレンジをして、その結果を検証する、実証するということに、研究者は面白さ、楽しさを感じているのだと思います。

― どのような人に入ってほしいと思いますか。

一研究者としては、超音速機の空気力学設計や音響計測といった分野の人に入ってもらいたいなという気持ちはあります。ただマネージメントの立場としては、いろいろな分野の人が必要だと思っています。というのも、新たな航空機の形やコンセプトを検討するには、いろいろな要素についてさまざまな視点から見ることが重要です。ですから、空力や音響だけでなく、構造、エンジン、誘導制御などの知識も必要になります。
また一人で取り組む活動以外にも、チームとしての活動やプロジェクトの活動も経験してほしいですね。こういう経験をすればシステム全体を見通す力がつきますので、将来はプロジェクトを推進できるような人に育ってもらえると思います。

執務室にて

2018年3月更新

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