構造・複合材料技術の研究

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2020年3月27日

“鳥の翼”のように駆動する「モーフィング翼」の風洞試験

実験準備の様子。試験モデルは
共同研究を行う名城大学と共同で設計・製作

2020年2月中旬から下旬にかけて、JAXA調布航空宇宙センターの2m×2m低速風洞において、先進アクチュエーター駆動によるモーフィング翼の性能試験を行いました。

モーフィング翼とは、翼の形状を連続的に変形させることができる一体となった構造を持つ翼のことで、従来の翼構造のように補助翼や方向舵などの動翼が別部品にはなっていません。部品間の隙間が存在しないため、翼面の空気抵抗を減らすことができます。また、モーフィング翼によって飛行中の翼にかかる荷重を細かく制御することで、設計の最適化を行うことができるようになると考えられています。

海外ではモーフィング翼の研究が盛んに行われていますが、JAXAでも2014年頃からモーフィング翼の研究を開始しています。今回の試験は名城大学との共同研究によるもので、後端フラップをモーフィング翼構造にした翼の簡易モデルに、駆動装置として形状記憶合金(SMA:Shape Memory Alloy)製ワイヤーを用いたアクチュエーターを組み込み、風の影響下でどの程度性能を発揮するのかを確認するものです。

低速風洞が作り出す時速72km(秒速20m)の風で、迎角を変えながらモーフィング翼の動作を確認し、SMAアクチュエーターが設定した性能を満たしていることを確認しました。
将来、モーフィング翼が実用化されれば、機体から発生する風切り音などの騒音の低減や燃費の向上が期待できます。JAXAでは、引き続きモーフィング翼に関する研究開発を進めて行きます。

拮抗式SMAアクチュエーターの構造(2017年度モデル)
ワイヤーの伸縮により後端フラップが上下に動く構造は同じだが、試験に用いたものは配置が異なる

試験に使用した簡易構造モデル。
内部に組み込まれたアクチュエーターによって後端部(黄色点線で囲った部分)が可動する

※ 鳥は翼の羽を風の抵抗に応じて動かしながら飛ぶ。このような飛び方を航空機の翼に応用し、翼を鳥の羽のように動かすことで、風に合わせた飛び方を行い、空気抵抗の低減や燃費の向上につなげていくという研究が進んでいる。このような生物から着想を得る、バイオミメティクス(生物模倣)という考え方は、さまざまな分野で応用が始まっており、航空機の構造を考える上でもすでに取り入れられている。