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宇宙航空研究開発機構

航空と宇宙の狭間にて -私見 その4-

JAXAメールマガジン 第300号(2017年10月20日発行)
白水正男

1990年代には多くの国でいわゆる“再使用型宇宙輸送システム”の研究開発が活発でしたが、諸般の事情で下火になってしまっていました。しかし最近、再び活発化してきている気配があります。今回は、再使用型に限らず、宇宙へ行く手段の研究開発の経緯みたいなものを少し振り返ってみたいと思います。

 宇宙に行くことが技術というより空想の世界であった頃には巨大な大砲で月に行くなんて話もありましたが、第2次世界大戦(1939~1945年)中にドイツがV-2というロケットエンジンを搭載したミサイルを実用化した頃から、現実の技術になってきます。宇宙に行くにはそれまでに実現していた速度よりもっと高速を必要としたため、ロケットエンジンという高速が出せる(正確には、速度に関わらず推力を出せる)推進装置の出現を待つ必要がありました。
人間が宇宙に行くということが視野に入ってきた1950年代に、技術的には2つのアプローチがありました。ひとつはミサイルの延長線上にあるアプローチ。もうひとつはその時点で人類が持っていた最も高速な輸送機器、すなわち航空機をもっと高速にしようとするものです。前者は文字通りミサイルの先端に弾頭の代わりにカプセルを乗せることから始まり、その後、衛星打上げ専用のロケットが開発されていきます。後者はX-1という有翼の機体で音速を超え、さらにX-15で音速の6倍に達し高度も100km程度まで上昇しました。帰還用の翼をつけた機体をロケットの先端につけるX-20(Dyna-Soar)という両者の折衷案のようなものもありました。ただ、推進系としては、当時のジェットエンジンはようやく音速を超えることができるくらいで、どちらのアプローチもロケットエンジンを使っています。
宇宙に行くことは当時の米ソ2大国の開発競争となり、早く実現できると考えられたロケット+カプセル方式で人類は宇宙に行き、月にも行きました。

この2つのアプローチを比べてみると、機体の形として、カプセル方式はシンプルで軽く、技術的にも早期に実現できる一方、航空機のように翼を使って上昇したり帰還するものは、快適性や安全性でより高い可能性を持っています(詳しくはメルマガNo.240No.248参照)。一方エンジンについても、ロケットエンジンとジェットエンジンのような大気中の酸素を使う空気吸い込みエンジンとには似たような関係があります。即ち、ロケットエンジンはコンパクトで大きな推力を出せ実用化も早いですが、燃焼室の圧力が高くて安全性や寿命に課題が多いのに対し、空気吸い込みエンジンはロケットエンジンに比べて安全性が高く酸化剤が要らないので燃料も少なくて済む可能性を持っていますが、高速で作動させることに課題があります。
米国のスペースシャトルや日本のHOPE-Xなどは、行きはロケットのように帰りは航空機のような飛行をします。米国が1990年代に研究開発を進めたX-30 NASP(National Aerospace Plane)は、航空機のような形をして空気吸い込み式のエンジンを使って上昇するまさに宇宙に行く航空機でした。しかし、肝心の空気吸い込み式エンジンに必要な技術がまだ十分ではないことなどから開発は中止され、その後、X-33というロケットエンジン使った単段の機体で地球周回軌道に行くシステムの開発を進めましたが、これも技術が十分ではないということで断念されました。

ある機能を実現しようとする場合に、複数のアプローチが存在することがあります。皆さんになじみが深い例として、携帯電話とスマートフォンもそのひとつだと思います。携帯電話は、移動しながら電話したいという要求で、自動車電話と呼ばれたかなり大きく電話しかできないものから始まり、その移動式電話は小型化し、データ通信やiモードで情報獲得や写真撮影もできるようになってきました。他方のスマートフォンは、電子計算機からスタートしてデスクトップコンピュータがノート型になり、タブレット端末というように進化しながらWi-Fiなどの通信機能を持つようになり、それがスマートフォンと呼ばれる小型端末になり、電話回線にもつながって電話としての機能も持つようになったわけです。
前者は固定式の有線電話をスタート点に、移動式、小型化、音声以外の通信、通信以外の機能の付加というように進化していったもので、後者はコンピュータから始まり、小型化や通信機能が強化されて電話として使うこともできるようになったものです。現在はスマホの方が台数が多くなったそうですが、機能としてはスマホが有利、電池寿命やコンパクトさでは携帯電話に利がある、ということで両者が使い分けられながら共存しています。

実は約100年前に馬車が自動車に替わった頃には、馬という動力源の代わりにガソリンエンジンか電気モーターかというアプローチが競い合ったのですが、当時はガソリンエンジンが圧勝しました。それが逆転する可能性が、最近になって見えて来ているという例もあります。

上に紹介したように、宇宙に行くというアプローチにも、遡れば火薬を使った花火に端を発するロケット+カプセル的なアプローチと、無動力のグライダーから始まる航空機の高速化というアプローチがあります。必ずしも正しい表現ではないですが、前者を宇宙的なアプローチ、後者を航空的なアプローチと強弁することもできるかもしれません。残念ながら航空的なアプローチはまだ地球周回軌道に入ることが実現できていません。でも、SpaceShipOneは航空的なアプローチで高度100km超という意味ですでに宇宙に到達しています。(厳密にはX-15が同様のことを実現していますが、あれはかなり荒っぽいものでした。)

メルマガNo.280で書いたように、宇宙と航空では考え方に文化としての違いがあると思っています。一方、技術的な観点でも違いがあり、宇宙に行くということは、宇宙のアプローチですでに実現できているし、航空のアプローチでも可能になると思っています。文化の融合とともに、技術の融合にJAXAが寄与していくことを期待しています。


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