CFRP雷撃損傷のマルチフィジックス解析技術の研究

航空機構造への適用が広がるCFRP(炭素繊維強化プラスチックス)は、従来の金属材料と比較して強度や剛性に優れる一方、電気的、熱的な特性は劣ります。そのため、航空機が運航中に遭遇する雷による損傷を防ぐため、雷の影響に配慮した適切な設計を行うことが求められます。雷による構造材料の損傷は、電気や熱、材料の特性変化、衝撃波や電磁気力などによる様々な現象が、極短時間で発生する非常に複雑な現象です。特に対象がCFRPの場合、詳細な損傷のメカニズムは、完全には明らかになっていません。

また、一度雷が機体に落ちると、高エネルギーの雷電流が航空機の機体構造を流れることになりますが、その際CFRPの端部からスパークが起きる「エッジグロー」と呼ばれる現象が生じます。これによって、燃料タンクの内部でスパークが起きないよう、適切な設計を行うことも重要です。このエッジグローについても、現象発生の詳細なメカニズムは、未だ完全には理解されていません。

この研究では、現象が複雑である故にいまだ完全なメカニズム把握が行われていない、CFRPの雷撃損傷やエッジグロー現象等に対し、実験的な検討と数値シミュレーションの高度化を行うことによって、そのメカニズムを明らかにし、航空機の効率的な開発や安全性の向上に繋げる事を目指します。

CFRPの雷撃試験時に発生する衝撃波の可視化試験

試験の目的と概要

本試験では、特にまだ解明が十分になされていない、CFRPへの被雷時に発生する衝撃波の挙動について、高速度撮影技術とシュリーレン法という可視化技術を用いて、視覚的に明らかにする事を目的として実施されました。

試験方法と試験設備

試験は、JAXAが保有する耐雷試験装置を用いて実施しました。航空機開発においては、自然界で実際に発生する最大規模の雷を模擬する雷電流を発生可能な試験装置を用い、耐雷試験を繰り返し行うことによって安全性を確認します。JAXAでは研究開発向けに、自然界で発生する雷現象のうち、おおよそ8割が含まれる規模の雷電流を発生できる装置を整備しています(図1)。

図1 耐雷試験装置の外観

15cmx15cmの小さなCFRPの供試体に、実際に雷電流を放電し、その際に発生する衝撃波の様子をシュリーレン法という手法を用いて可視化しました。シュリーレン法とは、シュリーレンミラー(図2)と呼ばれる特殊な1対の鏡を用い、直接目では観察する事ができない大気等の圧力差を影絵の様に可視化する手法です。高速で進展する衝撃波の様子を詳細に捉えるため、高速度カメラにより1秒間に100万コマ(1 Mfps)という超高速撮影を行っています。また、雷撃の瞬間には非常に強い光が伴うため、通常の方法ではその発光によりシュリーレン像がかき消されてしまいます。そのため、光源として高エネルギーのレーザー光源を用いるなどの工夫を行っています。

図2 シュリーレンミラー

図3に、試験の構成を表した模式図を示します。

図3 試験装置の構成の概要

試験結果

今回の試験により、取得したシュリーレン画像の例を図4に紹介します。上段にシュリーレン画像と同時刻に撮られた通常の高速度カメラによる撮影結果も併せて示しました。どちらも、1マイクロ秒(μs: 1秒間の百万分の1)ごとに撮影された結果から、23マイクロ秒ごとの結果を抜き出したものです。雷電流が印加された直後、大気中の雷電流の通り道が瞬時に加熱されてプラズマ化し、それが急激に膨張することによって衝撃波が発生し、着雷点から半球状に進展していく様子が鮮明に捉えられています。

これらの試験結果は、雷による構造損傷の発生において、構造を流れる雷による大電流だけでなく、同時に発生する衝撃波などがどの様に影響を及ぼしているかを理解するための、重要な知見となります。


図4 高速度カメラによる画像(上段)と、シュリーレン法により可視化された模擬雷撃に伴う衝撃波の進展挙動(下段)


2024年11月27日更新