航空機用MW級電動ハイブリッド推進システムの技術実証(MEGAWATT)

demonstraition of Massive Electric Generation for Aircraft and Wake Adaptive Thruster Technologies

トピックス一覧へ


燃費性能の限界突破とCO2排出削減を目指して

航空分野におけるCO2排出削減への要求は全世界規模で高まっており、SAF(Sustainable Aviation Fuel)や水素等、新しいエネルギーへの転換が注目される中、電動化技術は次世代技術の有力な候補となっています。

JAXAは、国内企業と鍵技術を統合してジェット旅客機メガワット電力時代の先駆けとなることを目指し、2023年度~2028年度の約6年間の計画で「航空機用MW級電動ハイブリッド推進システムの技術実証(MEGAWATT)」に取り組んでいます。MEGAWATTでは、電動ハイブリッド航空機の推進システム技術を、技術成熟度の高い大電力統合システムとして早期に実証することにより、国内企業群が個社の強みを活かした電動化製品事業を世界に先駆けて開拓することをミッションとしています。技術実証を通じて獲得した成果は、国内企業各社への技術移転や国際標準化へと展開し、次世代旅客機の電動ハイブリッド化に貢献します。

燃費性能の限界突破とCO2排出削減を目指して

燃費削減効果をもたらす新しい空力形態“WAT”コンセプト

胴体尾部に推進用のファンをとりつけることによりBLI(Boundary Layer Ingestion)効果を用いて推進装置の効率を向上する概念は従来から提案されてきましたが、未だ実現していません。その理由は主に二つあり、一つ目は胴体尾部近くの空気の流れはかなり複雑に歪んでおり、従来のターボファンエンジンが吸い込むにはリスクがあること。二つ目は、離陸滑走時に機体を引き起こす際、胴体尾部のファン外殻が地面に触れてはいけないので、尾部ファンの直径にはどうしても制約が生じ、期待するほどの効果を得られないことです。これらのうち前者については電動ファンの採用により実現可能性を向上できることから、最近のBLI型航空機の提案はほとんどが電動ファンを前提としています。一方、後者については抜本的な解決策が見いだせないままでした。

JAXAは、WAT(Wake Adaptive Thruster:胴体後流適応型推進器)コンセプトとして、上記の課題を解決する新しい空力形態を提案しています。

燃費削減効果をもたらす新しい空力形態“WAT”コンセプト

WAT(Wake Adaptive Thruster:胴体後流適応型推進器)コンセプトの概要

WAT(Wake Adaptive Thruster:胴体後流適応型推進器)コンセプトの概要

旅客機における大電力の供給

現在の旅客機も電力を利用していますが、その目的は推進力を生成するためではなく、空調、ギャレー、防除氷等の様々なシステムの動力源のためです。電力を生成しているのはエンジンに取りつけられている発電機です。航空機システムは世代を経るごとに電力需要が大きくなっているため、エンジン搭載発電機の容量は指数関数的に増加する傾向にあります。現在のエンジン搭載発電機は高圧軸から抽出した軸動力で駆動される方式ですが、高圧軸から抽出できる動力は限界に近付いており、電動ファンで推進力を生み出すために必要な電力を供給するためには、低圧軸に搭載するタイプの新しい発電機の実現が鍵となります。

国内企業の鍵技術が電動ハイブリッド旅客機実現の突破口になります。

旅客機における大電力の供給

MEGAWATTが取り組む主な研究開発

MEGAWATTでは電動ハイブリッド推進システムを構成する主要なサブシステムを開発し、地上試験設備を用いて以下の技術実証試験や解析・評価に取り組みます。

①JAXA独自のWATコンセプトについては、CFDと遷音速風洞試験により有効性を検証し、技術実証によって得られた成果を反映して電動ハイブリッド旅客機としての実機相当の性能を解析・推定します。

②MW級発電電動機試験装置を開発し、MW級供試体試験を実施することにより実証コンポーネント性能の妥当性を検証します。

③電力源システムを開発し、エンジン‐発電機統合実証試験により、エンジン低圧軸に直結された発電機から大電力を生成できること、発電機故障等がエンジンに伝播しないよう保護機能が確実に作動することを実証します。

④電動ファン駆動システムを開発し、高空環境実証試験により、低圧環境下にて実機相当の駆動力を生成できること、電動機を冷却する冷却器に起因する空力損失が設計通りであることを実証します。

得られた成果を各国内企業に技術移転するとともに、技術的知見を国際標準化に向けて役立てていきます。

MEGAWATTが取り組む主な研究開発

MEGAWATTが取り組む主な研究開発

エミッションフリー航空機技術の研究開発(2015年4月~2021年3月)

航空機におけるエミッションフリー(排出物ゼロ)の実現を目指して、燃料電池とガスタービンを組み合わせた高効率の電動ハイブリッド推進システム、水索燃料の適用、新しい形態の電動航空機の研究などを行いました。


2024年3月26日更新